目次
1.膵臓がんについて
2.膵臓がんの治療
3.膵臓がんの病期(ステージ)分類と治療方針
4.膵臓がんの手術
5.膵臓がんの化学療法
6.その他の膵臓疾患
1.膵臓がんについて
膵臓は胃の背側にある臓器で、右側は頭部、真ん中は体部、左側は尾部といいます。膵臓がんとは膵臓にできる悪性腫瘍のことですが、専門的には「浸潤性膵管がん」と呼ばれ、膵液の流れ道である膵臓内の膵管から発生します。膵臓にできる腫瘍の約90%を占めます。
2.膵臓がんの治療
膵がん診療ガイドラインに沿って、進行度(ステージ)と切除可能性、また全身状態を考慮して治療方針を決定します。治療には、手術、抗がん剤治療、放射線治療などがあり、これらの治療を併用する集学的治療が重要です。同時に疼痛や黄疸に対する支持(緩和)療法を行います。
3-1.膵臓がんの病期(ステージ)分類
● T:腫瘍径、● N:リンパ節、● M:遠隔転移
Tis | 非浸潤癌 | |
T1 | 膵内に限局≦20mm | |
T1a | 5mm 以下 | |
T1b | 5mmをこえるが10mm以下 | |
T1c | 10mmをこえるが20mm以下 | |
T2 | 膵内に限局>20mm | |
T3 | 膵外に進展 | |
T4 | 腹腔動脈または上腸間膜動脈に浸潤 | |
N0 | 領域リンパ節転移なし | |
N1 | 領域リンパ節転移あり | |
N1a | 1~3個の転移 | |
N1b | 4個以上の転移 | |
M0 | 遠隔転移なし | |
M1 | 遠隔転移あり(膵外臓器、領域外リンパ節) |
進行度(ステージ)分類
Stage 0 | T0, Tis | N0 | M0 |
Stage IA | T1 (T1a, T1b, T1c) | N0 | M0 |
Stage IB | T2 | N0 | M0 |
Stage IIA | T3 | N0 | M0 |
Stage IIB | T0, Tis, T1, T2, T3 | N1(N1a, N1b) | M0 |
Stage III | T4 | Any N | M0 |
Stage IV | Any T | Any N | M1 |
切除可能性分類
腫瘍と膵周囲の重要血管との関係から、切除可能(Resectable):R、切除可能境界(Borderline resectable):BR、切除不能(Unresectable):URに分類されます。
切除可能 切除可能境界 切除不能(局所進行)
3-2.膵臓がんの治療方針
ステージI, II(切除可能膵臓がん)
・多くは術前化学療法を施行し、その後手術を行います。手術後に状態の回復を待って、術後化学療法を行います。
ステージIII(ボーダーライン膵がん)
・化学(放射線)療法を施行し、再評価後に切除可能性を再検討します。切除が困難な場合には化学療法を継続します。
ステージIV(切除不能膵癌)
・膵周囲の血管浸潤が顕著な場合や遠隔転移を伴う切除不能膵癌は、化学(放射線)療法を行います。
4.膵臓がんの手術
膵がんの場所と広がりから、膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術、膵全摘術などの術式を選択します。がんが転移している可能性のある周囲のリンパ節や周囲臓器も含めて切除します。
膵頭十二指腸切除術、再建 膵体尾部切除術
腹腔鏡下膵体尾部切除手術
近年、患者さんの負担を考慮した低侵襲な腹腔鏡手術が広く行われつつあります。当院でも適応のある患者さんには、膵体尾部腫瘍に対して腹腔鏡下膵体尾部切除術を施行しています。膵臓癌に対しては、安全性、根治性を損なうことのないよう適応を検討し対応しています。
術前3D-CT検査によるシミュレーション
膵臓の周囲には大切な血管が存在しており、当院では術前に3D-CT検査をもとに、詳細な解剖を検討し安全性と根治性を考慮した手術に取り組んでいます。
5.膵臓がんの化学療法
膵臓がんの治療では、手術と共に術前、術後の化学療法によって再発率の低下や生存期間が延長することが報告されており、ステージ0期以外では化学療法の併用が考慮されます。
・膵がんの治療について、詳しくお知りになりたい場合は、日本膵臓学会のホームページ(https://www.suizou.org/gaiyo/guide.htm)の膵癌診療ガイドラインなどもご参照ください。
・標準治療が困難となった場合には、病理組織や血液を用いて遺伝子検査を行います。目的の遺伝子変異があった場合には、遺伝子変異に基づいた薬剤が使用可能な場合もあります。当院では、四国がんセンターと協力して遺伝子パネル検査を施行しています。
6.その他の膵臓疾患
膵嚢胞性疾患
膵管内乳頭粘液性腫瘍:IPMN
男性にやや多い、好発年齢は60~70代、しばしば多発性、多くは多房性(ぶどうの房状;cyst by cyst)。主膵管と交通あり。主膵管型と分枝膵管型に分類されます。
手術適応:主膵管型は悪性の事が多く手術適応です。分枝膵管型は、大きさ3cm以上、嚢胞内結節、主膵管の拡張を認める場合や症状を有する場合などは手術が考慮されます。
膵粘液性嚢胞性腫瘍:MCN
女性、中年に多い、膵体尾部に好発、卵巣様間質を含む厚い線維性被膜を有する。内腔に凸の嚢胞内嚢胞を有する(夏みかん様:cyst in cyst)。嚢胞間の交通はなく、MRIの信号レベルや超音波検査のエコーレベルが嚢胞事に異なります。主膵管との交通は通常ありません。
漿液性嚢胞性腫瘍:SCN
女性に多く、好発年齢は60歳前後で、発生部位では頭部と体部に差はありません。微小嚢胞が集簇したmicrocystic type、肉眼的に多房性を有するmacrocystic type、またその亜型で単房性のunilocular type、両者が混在するmixed type、顕微鏡レベルの微小嚢胞の集簇で充実性に見えるsolid typeに分類されます。
主膵管との交通はありません。嚢胞間隔壁が多血性で造影CT検査では濃染することが多く、多くは良性で経過観察が可能ですが、有症状例、高度脈管浸潤あり、急速増大する場合、腫瘍径6 cm以上はmalignant potentialを有する可能性があり手術が考慮されます。時に多発することがあり、多発する場合は、多臓器(中枢神経、網膜、腎臓、膵臓、副腎、内耳)に腫瘍や嚢胞が発生するVon Hippel-Londau病と関連していることがあります。
充実性偽乳頭状腫瘍:SPN
若年女性、膵体尾部に好発します。充実部分と変性や出血を伴う偽嚢胞部分が混在することが多く、充実部分は多血性で、造影CT検査で濃染されます。形態として、膵外側に膨張性に発育する境界明瞭な球状腫瘤を示すことが多く、腫瘍辺縁や内部に石灰化を伴う(30%)とされています。治療は手術が必要です。
貯留性嚢胞:retention cyst
分枝膵管がなんらかの原因で閉塞し、嚢胞状に拡張したものです。炎症や外傷、腫瘍性などがあります。多くは良性ですが、通常型膵癌や上皮内癌に伴う貯留嚢胞を認めることがあり注意が必要です。隣接する腫瘤の有無や尾側主膵管の拡張の有無に注意する必要があります。
膵神経内分泌腫瘍 嚢胞形成型NEN
嚢胞を形成する膵内分泌腫瘍(P-NET)は、cystic PNETと呼ばれ、PNETの5~10%とされます。男女差、年齢層に差はなく、膵尾部に多い傾向があります。充実部分は造影CT検査で早期から濃染され、嚢胞部分は一般的に単房性です。
膵神経内分泌腫瘍:P-NEN
ホルモンを分泌する内分泌細胞(ランゲルハンス細胞)が腫瘍化したものが膵神経内分泌腫瘍です。インスリンやガストリンなどのホルモンを過剰に分泌して症状を有する機能性腫瘍とホルモンを分泌しない非機能性腫瘍に分類されます。また細胞の分化度によって高分化型の神経内分泌腫瘍と低分化型の神経内分泌癌に分類されます。
この病気は多発性内分泌腫瘍1型(MEN-1)やフォン・ヒッペル・リンドウ病など遺伝性疾患を背景としているものがあります。
腫瘍の進行度と患者さんの全身状態により適切な治療が必要です。膵内に限局している場合には、外科的切除が根治的治療となります。
膵切除(膵頭十二指腸切除、膵体尾部切除、核出術、膵全摘術)を腫瘍の部位や進行度によって選択します。インスリノーマや2cm以下の非機能性P-NETでは縮小手術が選択されることもあります。
膵神経内分泌腫瘍の手術(膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン2019)
1)非機能性腫瘍:局在やリンパ節転移のリスクを考慮して、核出術(+リンパ節サンプリング)やリンパ節郭清を伴う膵切除術が必要です。
1cm未満:経過観察を選択しても良いとされています。
2cm未満:条件により経過観察可能。ただしリンパ節転移のリスクあり。リンパ節郭清を伴う膵切除が原則です。
2cm以上:リンパ節郭清を伴う膵切除が必要です。
2)インスリノーマ:手術による根治が期待できます。主膵管損傷をきたさず安全に施行できるのであれば核出術が推奨されます。腫瘍被膜を持ち浸潤傾向がなければ脾動静脈温存手術が推奨されます。多発、膵管拡張、浸潤、リンパ節転移を認める場合はリンパ節郭清を伴う膵切除が必要です。
インスリノーマは多発することがあり、術前の血管造影下選択的動脈内刺激薬注入法(SASI Test;Selective arterial secretagogue injection test)による局在診断が必要です
3)ガストリノーマ:ガストリノーマトライアングルと言われる十二指腸、膵の両方から発生し、切除によってのみ根治できる。ガストリノーマはその60~90%が転移する。リンパ節郭清は必須です。
4)グルカゴノーマ、VIPoma、ソマトスタチノーマなど他の神経内分泌腫瘍:一般的に予後不良。術前診断で治癒切除可能と判断された場合は外科切除が推奨されることもあります。
5)NET G3, NEC:NET G3はG1, G2に準じて肉眼的に切除可能であれば切除の適応です。NECは極めて予後不良で、切除の適応はありません。
- 同時性遠隔転移を伴う症例は、切除可能病変に関しては切除を中心とした集学的治療を行います。
- ホルモン症状を有する機能性NET に対しては,症状をコントロールする目的でソマトスタチンアナログ(オクトレオチドやランレオチド)が用いられることもあります。
- 神経内分泌癌(NEC)に対する抗がん剤治療は、分子標的薬のエベロリムスやスニチニブでは予後延長効果が証明されています。
- 神経内分泌癌(NEC)には、ペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)が用いられます。PRRTは、腫瘍細胞に発現しているソマトスタチン受容体に結合するペプチドに放射性核種を結合させた薬剤を投与し、腫瘍内部から放射線を照射することで腫瘍細胞を破壊する治療法です。一般的に予後が悪く、PRRTを中心に、手術や薬物療法と組み合わせた集学的治療が行われます。