外科2017/11/24

直腸癌について

現在、大腸がんの死亡率は、男性では肺がん、胃がんに次いで3位であり、女性では1位になっています。大腸がんの年間罹患数は男女合わせて、13万人を超えており、そのうち直腸がんは、1/3を占めております。大腸がんは今後さらに増加していくと考えられています。

1.大腸の解剖

大腸は大きく分けて直腸と結腸に区分されます。 結腸は、口側から順に、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸に区分けされ、直腸は、直腸S状部、上部直腸、下部直腸に区分されています。

結腸は、水分や電解質の吸収を担っておりますが、その働きは一部です。

一方、直腸は便を貯留し、水分の再吸収を行って便を硬くし、排便を調節する機能を担っており、この部分を切除すると多少便通は変化します。

2.検査と診断

検診では、大腸がんのスクリーニングとして便潜血反応が行われています。この検査は便中のヒトヘモグロビンを検出する簡単な方法ですが、早期大腸がんを発見するうえで有用です。

大腸がんを診断する検査としては、肛門指診、注腸造影検査、大腸内視鏡検査などが行われます。

大腸がんの進行度を診断する検査としては、腹部超音波検査、腹部造影CT検査、腹部MRI検査、PET検査などの画像診断が有用です。

腫瘍マーカーは、がんの有無や進行度、治療効果などを確認するために測定します。しかし必ずしも上昇するわけではなく、また他の原因でも上昇することがあります。

3. 治療

大腸がんでは癌の進行度により、以下の治療法を選択、もしくは組み合わせて行います。

1)内視鏡治療

 粘膜内や粘膜下層の比較的浅い範囲に留まっているがんの場合には、内視鏡によって治癒切除することができます。もちろん、深達度の浅い癌であっても、病変の大きさや場所によっては安全で確実な内視鏡切除ができないこともあります。また内視鏡切除後に、がんの拡がりが予想外に広く切除断端にがんが残った場合は、追加で腸切除術を行うこともあります。

2)手術治療

a)経肛門的切除

 比較的肛門に近い直腸がんでは、肛門から直視下に病巣を切除できる場合があります。適応は内視鏡切除とほぼ同様ですが、直接目で見て切除できますので、より広範囲の病変の場合も切除可能です。

b)直腸切除

内視鏡治療で切除できない早期がんやリンパ節転移が疑われる直腸がんの場合は、リンパ節郭清を伴った直腸切除術が必要になります。直腸がんが膀胱などの周囲臓器に浸潤している場合には、浸潤臓器を含めた骨盤内臓の全摘術を行うことがあります。

C)自律神経温存手術

直腸がんは広く切除すると内蔵を支配している自律神経を損傷してしまい、術後に排尿機能障害や性機能障害を起こしてしまいます。自律神経温存術を行うことで、患者さんの術後のQOLに大きく役立ちます。手術は神経を見分けながら、病巣だけをうまく切除する高度な内容になります。がんの浸潤の程度によってはやむを得ず神経を切断することもあります。

d)肛門温存手術

直腸は、大腸のうちで一番肛門に近いところにあります。がんを治すための手術では、がん周囲の正常な部分を含めて広く切除しますので、直腸がんが肛門のすぐ近くにできてしまうと、直腸と肛門を一緒に切除して人工肛門を作らざるを得ない場合があります。しかし、比較的早い時期のものであれば、肛門括約筋(肛門を締める筋肉)を部分的に残すことで、肛門から排便する機能を温存できるようになりました。(図1)さらに最近では、手術前に放射線治療を行うことでがんを小さくし、肛門を温存できる可能性を高められるようになりました。本術式では、一時的な人工肛門を作ることがありますが、約3ヶ月後に人工肛門を取り除いて、本来の肛門から排便できるようになります。

3)薬物治療

a) 手術後の再発を防ぐための化学療法

手術で目に見えるがんを完全に取りきれた場合でも、目にみえない小さながん細胞が体内に残って、再発の原因となる可能性があります。再発をできる限り防ぐために、手術後に抗がん剤を使用する治療を「術後補助化学療法」といいます。術後補助化学療法を行うことが推奨されるのは、リンパ節転移のあるステージⅢの患者さんです。また、ステージⅡの患者さんであっても、再発の可能性が高いと判断される場合には、術後補助化学療法を行ったほうがよい場合があります。

b)手術ができない場合や再発した場合の化学療法

手術で取りきることができないがんや再発したがん(切除不能な大腸がん)に対して、抗がん剤を使用する治療です。この治療は、がん細胞を死滅させ、がんが進行するスピードを抑え延命することを目的として行われます。さらに、がん細胞を増殖させないことを目的とした分子標的薬が登場し、従来の抗がん剤の効果をさらに強めることが可能となりました。

c)手術前に行う化学療法

手術前に化学療法を行うことで、がんを小さくし、がんを完全に取り除くことや、切除する範囲が当初の想定よりも小さくすることで、正常な臓器を温存できるようにする治療です。直腸には泌尿器や生殖器の機能をつかさどる神経や、排便機能をつかさどる筋肉など、患者さんの術後のQOLに重要な要素が存在しています。このため、これらをなるべく傷つけないようにしながら、がん病巣を確実に取り除くためには手術前に行う化学療法が重要になる場合があります。また放射線照射を組み合わせることで、術後の再発率が低下し、生存率が改善することも既に明らかになっています。。

4)放射線治療

直腸がんの術前の補助療法として、あるいは、再発した直腸がんや転移した大腸がんの治療を目的として行われます。また、転移したがんによる痛みを和らげる目的で行われることもあります。

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