脳神経外科2019/02/22

脳脊髄液減少症とは?

 脳脊髄液腔から脳脊髄液(髄液)が持続的あるいは断続的に硬膜外に漏出したり、脱水などにより失われることによって髄液が減少し、起立時に脳が下方へ牽引され、頭痛起立時に起こります)を主症状として、その他、頚部痛、めまい、耳鳴り、倦怠感などさまざまな症状を呈する病態です。
 しかし、現時点ではその発症機序や原因には不明な点が多く、確実にこの病態を診断する方法はありません。以下に述べるようないくつかの画像診断を組み合わせて診断をしますが、あくまでも疑いが高いという表現でしかありません。また、現在の症状が本当に髄液減少症によるものであるかも断言はできません。
 従って、画像の診断によって脳脊髄液減少症の疑いが強いと判断された場合は、診断的治療として下記の治療を行い効果があれば、確定診断となります。

原因

①真の脱水状態(体内水分の減少)

脳脊髄液漏出
 →外傷性:交通事故、スポーツ、手術など
 →特発性:原因不明(尻餅など些細な外傷が原因ともいわれています。)

~交通事故後のむちうち損傷と脳脊髄液減少症との関係について~

むちうち損傷後の症状は非常に多彩であり、また様々な因子(元々の頚椎の構造・加齢変化、心身のストレス、被害者意識など)により症状が増悪します。むちうち損傷は、別名を外傷性頸部症候群といい、脳脊髄液減少症と非常に症状が類似しており鑑別を要します。一番の鑑別点は、画像所見を認めない点です(脳脊髄液減少症は画像で診断可能)。以前、むちうち損傷による症状が、全て脳脊髄液減少症に起因するかのような報道がなされ、誤解を招いておりましたが、脳脊髄液減少症は、むちうち損傷で起こりうる合併症の一部であり、全例に起こるわけではありません。

症状

ほぼ全例に、頭痛を認めます。典型的には、起立して数分~数十分すると引っ張られるような強い頭痛を認め、横になると楽になる、起立性頭痛を認めます。
その他、めまいや頚部痛、視覚異常、悪心・嘔吐など多彩な症状を認めます。
めまいだけ、など頭痛以外の症状のみで発症することは稀です。

臨床症状と頻度

臨床症状 病態 頻度
頭痛 髄膜・血管の牽引 100%
悪心・嘔吐 髄膜の刺激 38%
複視 外転神経の伸展 30%
聴力障害 聴神経の伸展 20%
頸部痛 脊髄根部牽引 18%
視野欠損 視神経・視交叉伸展 12%
回転性めまい 内耳迷路内圧減少 8%

診断

現状での脳脊髄液減少症の考え方

脳脊髄液減少を客観的に評価することは、現時点では困難であり、髄液漏出症と低髄液圧症のどちらか、
もしくは両方を認めた場合に脳脊髄液減少症と診断されます。

当院での診断方法

症状(頭痛、特に起立性頭痛)と画像診断にて診断します。画像については、厚生労働省研究班作成の脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準に基づき診断を行っております。

①造影頭部MRI、脊髄MRI、MRIミエログラフィー

a)

b)

c)

a)頭部MRI 赤矢印:硬膜が全周性に造影されています。
      黄矢印:この方は慢性硬膜下血腫(後述)を合併しております。
b)脊髄MRI
      赤矢印:矢状断→胸椎に漏出が疑われます。
          軸位断→硬膜外に全周性に髄液漏出が疑われます
c)MRIミエログラフィー
      赤矢印:矢状断→胸椎に漏出が疑われます。

②RI脳槽造影(RIシステルノグラフィー)、CTミエログラフィー

入院していただいた上で行います。
背部の腰のあたりから細い針を挿入し脳背髄液腔まで穿刺します。そこで脳脊髄液の圧を計測し、インジウムと呼ばれる放射性同位体と、CT用ヨード造影剤を注入し、数回にわたって撮影を行います。

RI脳槽造影画像
(2.5時間後の画像、赤矢印:漏出部位)


CTミエログラフィー画像
(赤矢印:造影剤の漏出を認めます。)

以上のような検査を行い総合的に判断します。

治療

①保存的治療

まずは、安静臥床と充分な水分補給(2L/dayの点滴を行います)で経過観察(約1-2週間)します。
軽症の場合は、これだけで症状が改善あるいは消失します。

②持続硬膜外生食注入

点滴で症状が改善しない場合は、これを行い、症状の変化を確認します。
施設によっては、いきなりブラッドパッチを行うところもありますが、当科では、漏出部位の確認と治療の効果を確認する目的で行っております。
腰部から針を挿入し硬膜の外まで針を進め、硬膜外の漏出部位近傍に細いチューブを留置します。そして、数日間ポンプを使ってゆっくりと生理食塩水を硬膜外に充填していきます(1時間に10ml程度の量)。
これにより、硬膜の外から生食による圧力を加えて硬膜内からの髄液の漏出を防ぐことを期待します。
効果が認められれば、ブラッドパッチを追加します。ブラッドパッチ後にチューブを抜去します。

③硬膜外ブラッドパッチ

硬膜外生食注入時に挿入した硬膜外チューブより、硬膜外に自己血(腕の静脈から10-20mlの血液を採取します)を注入します。血液が硬膜の周りで固まり糊の役目をして、硬膜からの髄液の漏れを防ぐことが目的です。髄液の漏出している箇所にブラッドパッチをするのが効果的と言われています。
自分の血液を使用しますので、合併症・危険性の少ない治療です。

硬膜外チューブより自己血を注入している場面


④治療によって期待される効果と限界

上記の方法で、頭痛が軽減、あるいは消失する人もおられます。しかし、全ての症例に効果があるわけではありません。漏出部位が、画像でしっかり特定でき、その部分にブラッドパッチができた場合は、1回の治療で改善することが多いです。
また、一時的に効果があっても再発する場合もありますので、何回かに分けて複数回処置が必要になる場合もあります。

⑤合併症

髄液減少症が重症化すると慢性硬膜下血腫と呼ばれる病態を合併することがあります。これは、髄液圧が減少し、脳と硬膜の間の隙間が拡張しそこに血液が貯留してくるためと考えられています。血液が貯留すると脳を圧迫するため局所麻酔下穿頭洗浄術(頭蓋骨に1.5cmほどの穴を開け、硬膜の下に貯留した血液を排出する手術)を行う必要があります。

 

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