形成外科2024/04/24

眼瞼下垂について 私の眼瞼下垂手術の特徴

1.目の開きについての計測はしません。検査もありません。

 短距離走に「追い風参考記録」というものがあります。この追い風の記録も、風速を計測せずに測定したタイムも、正式な記録にはなりません。人の体調も波があり、強い風がどの方向からか吹いているようなもので、・前日は休みだったか、激しい仕事だったか・前夜の睡眠は十分だったか否か・眠くなる薬は飲んでいないか、カフェインの入った飲料はとっていないか・診察時間は朝か夕方か、食事の前か後か・診察を待たされてイライラしていないか、などで変化してしまいます。また、「目を開けてカメラを見てください」と言われて、普段通りの力で目を開けられる方もいれば、大きく見開く方もいます。そろわない条件で得られた開瞼の数値で評価することに意味があるとは正直思えません。判断ミスにつながるとさえ思っています。実際、眼瞼痙攣を伴った患者さんは、「開いているけど重い」「開けているのがしんどい」と訴えられることが多いのです。

 手術適応かどうかを判断する検査もありません。患者さんがどれくらいつらがっているかが重要なのであって、人のつらさを数値化できるものではありません。ですから、痛い、つらい思いをしても手術を受けたいかどうかが基準になります。例えば「ふたえ」になりたいがため、つらくもないのに「つらい」と嘘を言って手術を受けようとする人をどう除外するか?ということですが、正直除外できません。つらさが強い方に行う手術は、過度な知覚を鈍くする手術ですが、適度な知覚の「嘘つき」に行うと知覚が不足することになり、本人が「嘘の代償」を払うことになります。

2. 不定愁訴も軽快させるために必要な処置を行います。

 目を大きく開けるだけなら、簡単な処置で可能です。ですが、不定愁訴(まぶた以外の体の不調)を軽くするためには、多くの処置を必要とします。時間と労力を要し、それでも保険点数(手術を行なう事によって病院に入る収入)は同じです。手術によっていろいろな症状がとれて喜んでいただくことが私の楽しみでもありますので、いっさい手を抜きません。

3. 局所麻酔でも、できるだけ痛みを小さくします。

 眼瞼下垂患者さんの中には、痛みを人よりも強く感じやすくなっている人がいます。そして術者は手術中に患者さんに痛がられることがとてもつらいのです。ですから麻酔はとても重要で、少しずつ改良してきました。今は2種類の麻酔薬と3種類の注射針を使って細かく麻酔することによって、かなり楽に受けていただくようになりました。それでも、「局所麻酔手術が怖い」、「痛みに弱い」方には、手術の中盤まで点滴からの鎮痛+鎮静剤(デクスメデトミジン)を使っています。効果には個人差がありますが、ほとんどの方がウトウトした状態で手術が進みます。終盤は目を開けていただきたいので、途中で投与を終了しますが、そのころには痛みの強い操作は終わっていますし、たいてい終了までぼんやりしています。効きすぎてほとんど目が開かない方や、夢を見るらしく体動が起こる方もいらっしゃいますので、できれば局所麻酔のみの方がいいのですが。

4. 術後の腫れは仕方ありません。しかし、できるだけ軽くなるようにしています。

 多くの処置をするということは、それだけ微小出血やリンパ管の損傷(特に脂肪の切除が必要な場合)がおこるため、術後ある程度腫れます。これは避けられません。ただ、術後の微小出血や切開部付近の組織損傷をできるだけ少なくするために、特殊な形状の電気メスを使います(レーザーも有効ですが、触れたところしか切れない電気メスのほうが安全だと思っています)。縫合前の止血確認も徹底的に行います。原則、ドレーン(血抜きの管)を1晩留置して、にじみ出た血液を外に排出させます。これらの手技で術後の出血量は少なく、たとえ腫れても、引くのが早くなります。

5. 手術時間は長め。よって原則1日1手術(両側)です。

 先の3項目のため、手術時間は長め(両側で1時間半~2時間半)になります。正直まあまあ疲れます。手術室の都合もありますので、原則1日1手術しかできません。その分、一人の手術に集中力を注入することができます。

【私のライフワーク】

 師匠の松尾清教授の発見に感銘をうけました。ただ、理論は非常に難解で手術も難しいです。これを出来るだけ理解し、自分の知識・手技としていく一方、他の形成外科医師、一般の方々にわかりやすく紹介していきます。そして多くの医師がこの方法を取り入れ、成績があがることで、「多くの不定愁訴は眼瞼下垂が原因である」ということが一般常識になるのが夢なのです。

【眼瞼下垂に関する今までの学会発表】

 他の施設の形成外科医にも松尾教授の腱膜固定がすばらしいことを知ってもらいたいため、積極的に全国の学会で自分の経験を発表しています。
 ここでは、日本形成外科学会学術集会で発表したもののみ掲載します。他の学会、地方学会での発表は割愛します。

2008(名古屋)易出血性の高齢者眼瞼下垂症に対する腱膜一針固定法の小経験

【解説】出血リスクがある場合、手術操作を少なくする目的で一針で固定しても効果があるというもの(現在は手術器械の進歩で出血リスクが少なくなったため一針だけというのは行っていません)

2009(横浜)強直性眼瞼痙攣手術における、閉瞼筋群筋力低下の工夫

【解説】閉瞼筋を切離しても瘢痕が腱の代わりになって筋力を戻してしまうため、切離した隙間に柔らかい脂肪を入れてそれをブロックするというもの(現在は少なくなった術式)。

2010(金沢)眼瞼痙攣に眉毛下垂を伴う眼瞼下垂症に対する手術方法の検討

【解説】眉毛下垂がある眼瞼痙攣・眼瞼下垂症の皮膚切除は眉毛上と上眼瞼の2ヶ所になる。1回よりも2回に分けて手術する方がいいか?2回ならどちらを先にするか?

2011(徳島)皺眉筋・眉毛下制筋の痙攣が開瞼や自律神経に与える影響

【解説】皺眉筋などに不随意収縮がある場合はこれらの筋肉切除のみで眼瞼下垂症状が軽快することがあるという報告。

2012(東京)眼瞼下垂ガイドラインシンポジウムにて「眼瞼痙攣・治療」担当

【解説】日本形成外科学会で眼瞼下垂のガイドラインを作りました。その中で「眼瞼痙攣・治療」を担当させていただきました。

2013(東京)眼瞼下垂・眼瞼痙攣を効率的に手術するための道具の選択、改良

【解説】眼瞼下垂手術では助手の働きが重要と言われています。しかし私は他にスタッフがいないところで手術を始めましたので、今までの道具を変形させたり、新しいものを作って助手の代わりにしています。

2014(長崎)腱膜性眼瞼下垂症手術時のミュラー筋の扱い

【解説】眼瞼挙筋を前転させるとその裏のミュラー筋も前転してしまい、結果が不満足な症例が時にあります。そのためミュラー筋が前転しない方法を述べました。また2013年にADM(ミュラー筋離断による固有感覚のさらなる減弱)が松尾教授により発表されましたので、それにも触れました。

2015(京都)腱膜性眼瞼下垂に対し、ミュラー筋離断を追加した腱膜固定法の術後成績の検討

【解説】ADMを追加した腱膜固定の術後成績について述べました。初回手術症例ではほとんどが訴えの消失または軽快が得られたという報告です。

2016(福岡)腱膜性眼瞼下垂における左右差の原因

【解説】腱膜性眼瞼下垂ではしばしば左右差がある症例が見られます。これらの原因として腱膜のズレ具合、ミュラー筋の強さ、挙筋自体の左右差と3つの原因があり、それぞれ手術操作が違うという発表です。

2017(大阪)腱膜性眼瞼下垂手術においてミュラー筋切離の必要性を判断する材料

【解説】ADMを追加すべきかどうかの判断が術前、術中に必要となります。そのためのいろいろな判断材料が信頼できるか否かについての発表です。

2018(福岡.パネルディスカッション「後天性眼瞼下垂術後のトラブルまたは不満足な結果に対するリカバリー」において)
ミュラー筋に糸がかかり、開瞼障害、不定愁訴の増悪が見られる症例のリカバリー

【解説】重瞼術や眼瞼下垂の手術後に最も問題となる眼瞼痙攣や全身の不定愁訴の増悪。原因はミュラー筋に糸がかかると異常収縮を起こすためと考えられています。このリカバリーには糸のかかったミュラー筋の部分切除とADMが必要ですが、それまでの術式によっては限界もあるという発表です。このパネルディスカッションは、パネラー6人のうち3人がほぼ同じ内容でした。

2018(東京・基礎学術集会)眼窩隔膜の形態について

【解説】手術中に観察された眼窩隔膜の状態を、厚みや穴の有無で分類して集計しました。眼瞼下垂の手術において、眼窩隔膜は修復・再建が不要で、凹凸のないまぶたにするためにはむしろ切除すべきものと考えております。

2019(札幌)上眼瞼ADM手術における瞼板前組織の利用

【解説】ADM手術の効果を確実にするための方法として、当施設では瞼板前組織を利用しているという技術面での発表です。

2020(名古屋)演題取り下げ

(シンポジウムに演題登録をしておりましたがオンラインでの討論なしとなり、新型コロナウィルス感染予防のため演題を取り下げました) 

2021(東京)挙筋前転(腱膜固定)における上眼瞼の脂肪量の調節

【解説】挙筋前転を行うと挙筋に付着している眼窩脂肪も前方へ出てくるが、人によってまちまちです。術前に脂肪が少なめに見える人でも多くなることも、もともと多めの人でもあまり出ないこともあり、予測がつきにくいのです。このため、挙筋を前転固定してから脂肪切除量を決定し、術後に過不足がないようにしています。

2021(神戸・美容外科学会)眼瞼痙攣の手術治療
【解説】軽症の眼瞼痙攣は患者さんの「まぶたが重い」という訴えが診断のキーとなります。痙攣を伴った場合は上眼瞼ADM治療を行います。まぶたを閉じる筋肉の異常収縮が残る場合はこれらの筋群の切除を行います。これらの治療で痙攣が軽症では治癒、重症でもかなり軽快しています。

2022(大阪)医原性眼瞼痙攣の治療―ミュラー筋内の糸や瘢痕を安全に除去する―
【解説】2018年の発表(ミュラー筋に糸がかかり、・・・リカバリー)についての具体的な手術手技を発表しました。短時間で効果がなくなる麻酔をミュラー筋の異常部位に注入し、まぶたの開きが変化なければ切除するという方法です。

2023(長崎)上眼瞼ADM術後に皺眉筋等の切除を追加した症例の検討

【解説】上眼瞼ADM手術により、眼瞼痙攣を伴った腱膜性眼瞼下垂症は治る可能性の高い疾患になったが、この手術を行っても、開瞼障害や不定愁訴が残る症例があり、皺眉筋等の切除を追加することで、さらに症状を和らげることができることが多いです。

2023(長崎)眼瞼下垂手術でのデクスメデトミジンの使用経験

【解説】局所麻酔での手術が痛みや恐怖で耐えがたい症例に点滴ルートからデクスメデトミジンを入れて鎮痛鎮静も行います。目の開きが悪くなり、確認に困ることもありましたが、絶対に開瞼できない全身麻酔よりはよい方法と考えます。ただし、徐脈、体動なども起こり得ることがあります。

2024(神戸)Whitnall靱帯および周囲結合織の個人差と腱膜固定時に必要な操作

【解説】眼瞼挙筋を露出したときに白い結合織が上に乗っていることがしばしばあります。これはWhitnallの論文に見られるsheathであり、これがWhitnall靱帯と挙筋腱膜を短くつないでいる場合、閉瞼障害や左右差の原因となるため、切離するなどの処理が必要になると考えています。

2024(神戸)眼瞼下垂手術時の出血に対する工夫

【解説】手術中、手術後の血腫(血液の塊)は後に瘢痕化してまぶたを硬くしてしまうため、極力これができない方がよいと考えています。手術中は麻酔を使い分けて電気メスを使ったり、術中に組織内を洗浄しています。術後の出血は止血剤とドレーンの留置で血腫形成を防ぎますが、ドレーンの痕が残らないような工夫もしています。

 

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